ビーコアのブログ

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【社長の場外乱闘 vol.2】グラゴル・ミサ

2022-09-22

場外乱闘の2回目です。場外乱闘らしく、業務とは関係ないことを好きに書きます。
プロフィール欄にも記載しましたが、ライブのエンターテインメントが僕は大好きです。ライブパフォーマンス中毒と思われても仕方のないレベルで、好奇心の赴くままにいろいろなイベントに日々顔を出しています。8月はあまりに暑かったのもあり、外出は控えて引きこもっていましたが、9月はその反動で週3回とか4回の頻度で何かしらのイベントに出かけています。

好きな催しに行くわけですから、たいていは予定調和的に「行ってよかったな〜幸せ!」となります。「期待したほどではなくて残念」ということもままありますが、そういうこともあるねとサラッと流して次に行きます。そんな中、期待値を遥かに上回る神回(驚愕のパフォーマンス)認定できる公演はそうそうありません。2 ヶ月に1回あればかなりの幸運で、年に数回程度というのが経験則です。運良く先日(9 月 9 日)、頭も心もガッツリ持っていかれた神公演に行くことができたので、今回はそこからスタートします。

大野和士指揮 東京都交響楽団 第 958 回定期演奏会 B シリーズ  サントリーホール ドヴォルザーク:交響曲第 5 番 ヘ長調 作品 76
ヤナーチェク:グラゴル・ミサ (1927 年第 1 稿)

神的な出来栄えでくらくらしたのは、後半に演奏されたグラゴル・ミサ。プログラム解説によると、グラゴル(古代チェコ語)で書かれたミサ曲とのことです。定期演奏会なのでろくに予習もせずにコンサート会場に行き、単純に曲名からの連想でレクイエム的な宗教曲かな?、眠くならないといいなと思っていました。蓋を開けてみたら、先入観からは大きくかけ離れた、オペラの良さと大編成シンフォニーの良さをてんこ盛りにした、アドレナリンが出まくる凄まじい楽曲でした。展開が早く、冗長さのかけらもないので非常に現代的で聴きやすいです。なかなかこの感動を文章で伝えるのはハードですが、頑張って続けます。

大編成の楽団の迫力がすごい!

ステージをパッと見て分かるのが、マーラーやワーグナーの大編成オケよりもさらにたくさんの奏者がフル出場していることです。打楽器はティンパニー 3 セット 12 台とドラや鐘、シンバル小太鼓と鳴り物の博覧会状態です。管楽器はたくさん。コンサートマスターは矢部さんと四方さんの正副ダブルでの登壇。後ろにはパイプオルガン奏者もいます。ハープは 2 台。それに加えて、4 人のソリストの歌手と 60 名の混声合唱団というなんとも贅沢な布陣です。これだけの人数ですから、最大音量となった時の圧力は凄まじいものがあります。大編成好きの僕の好みにピッタリの楽曲です。

パイプオルガンがすごい!

パイプオルガンが入ることで、大編成プラス合唱にさらに厚みと宗教色が加わります。具がましましの状態です。しかも、7 楽章はパイプオルガンの独奏で弾きまくり状態となります。サントリーホールのパイプオルガンが咆哮レベルでこんなに鳴っているのを聴くのは初めてです。パイプオルガン独奏部分を聴いていたら、なぜか高校生の時によく聴いていたプログレロックのオルガン(*注記1)が思い出されました。記憶の沼の底の方に沈殿していた、少年時代にハマった曲を急に思い出したことには我ながらびっくりです。パイプオルガンの轟音によって脳が不思議な反応をして過去の記憶が召喚されたのだと思います。

原典版がすごい!

複雑な構成かつ、ポリリズムの非常に立体的な曲です。しかし、複雑なのに難解ではなく五臓六腑にするするとしみわたっていきます。冗長さがほとんどなく、スピード感のある展開なので、非常に現代的な響きだと感じました。100 年前に作曲されたのに、全く違和感なく現代のスピード感にマッチすることに心底感心します。約 45 分強を一気に駆け抜けて、最後は腰が抜けそうでした。集中して聴くには、曲の尺も絶妙に良かったです。

演奏会後に指揮者の大野和士のインタビュー解説を YouTube で見て(予習しておけばなお良かった)、原典版というところに神回の秘密があると学びました。1926 年に作曲されたオリジナル版があまりに壮大だった為に、演奏会で公演するにはハードルが高く、だんだんとこの曲は楽器数を減らしたり曲の構成を単純化する改訂を繰り返したそうです。1929 年に出版された楽譜が演奏会標準版として長らく演奏されてきましたが、今回の演奏会は 1926 年作曲の原典版で、ヤナーチェクが本来やりたかった複雑な構成をたくさんの楽器で表現するバージョンです。大野氏の解説によると、原典版では 4 分の 3 拍子と 8 分の 7 拍子と 8 分の 5 拍子が同時に演奏されることによる、複雑な立体感がでているとのことです。クラシックとジャズでジャンルは全く違いますが、ポリリズム導入による音楽の神秘性と中毒性については、マイルス・デイビスが 1972 年リリースした on the corner (*注記 2) を聴いた感覚に近いものがあると感じました。原典版を初体験から LIVE で体験できたのは本当にラッキーでした。演奏会後に演奏会標準版の演奏をいくつかストリーミングで聴いてみましたが、LIVE で聴いた原典版の興奮は残念ながら再現できませんでした。

あっという間の感動体験で脳は蕩けてしまいました。ほとんどの観客が僕と同様の衝撃をうけたみたいで、聴衆の拍手は延々と続き、最後はオーケストラ団員が退場後も拍手は鳴り止まずに、指揮者とソリストの声楽家が出てきて拍手に応えていました。ここまでの熱狂的な拍手の嵐はそうそうありません。予定調和的な演奏会体験から程遠い、驚きと興奮に溢れた演奏会には圧倒されました。初めてメシアンのトゥーランガリラ交響曲をホールで聴いた時の感覚を思い出しました。未知との遭遇体験とでもいいましょうか。滅多にお目にかかれない原典版という逸品を、完璧な状態で披露してくれた大野和士には感謝です。こんな凄いもの LIVE で体験できて幸せです。ありがたやー。再演があればおかわりしたいところですが、今回はたった一夜のパフォーマンスのようです。もったいない。次回はいつになるか分かりませんが、再演されれば大野和士と都響のグラゴル・ミサは必ず行きたいと思いました。

そしていよいよ、11 月 15 日から新国立劇場で大野和士指揮によるボリス・ゴドゥノフが上演されます。製作発表された時から楽しみにしていたので、あと 2 ヶ月で幕開きだと思うとウキウキドキドキしてきます。全 5 回公演の予定ですが、最低でも 2 回できれば3回以上行けたらいいなと妄想は広がるばかりです。ボリス・ゴドゥノフを LIVE で観るのは 1994 年のアバド・ウィーン国立歌劇場の NHK ホール公演以来なので、大野和士による今この時代に演るボリスがいったいどうなるのか、楽しみで楽しみで堪りません。前哨戦のグラゴル・ミサでこんなに素晴らしい音楽体験をしてしまうと、期待値が max になってしまいます。


*注記1: オルガン深堀り
クラシック音楽でのパイプオルガンといえば、バッハがすぐに連想されます。近代の曲ではマーラーのシンフォニーやR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」でもパイプオルガンは登場しますが、独奏で弾きまくるというスタイルではありません。グラゴル・ミサで驚いたのは強烈なパイプオルガン独奏の楽章があり、これがなぜかプログレロック風に聴こえてしまうことです。 演奏会中に急にリック・ウェイクマンを思い出してしまい、家に帰ってから本当に久しぶりに過去の名盤を掘り返してしまいました。40年前の記憶でほとんど忘れかけていたものが急に出現して驚きました。Rick Wakeman "The Six WIves of henry VIII” は中学生から高校生の頃によく聴いていたのですが、すっかり記憶の倉庫の隅に追いやられていました。ほぼ40年ぶりにストリーミングで聴いたリック・ウェイクマンは懐かしいと同時にある意味新鮮でもありました。ヤナーチェクとリック・ウェイクマンが脳内で連結するとは不思議な化学反応です。ついでにインスブルック冬季五輪の記録映画 White Rock (当時はすごく流行りました)や YES時代の名曲も根掘り葉掘り聴き直してしまい、本当に久しぶりにプログレロックを楽しみました。ちなみに、僕の場合はプログレロックを聴いていた期間は10代中頃の2年間ぐらいだけで、その後はクロスオーバー・フュージョン経由でどっぷり JAZZ の沼に嵌っていったので、そういう時期もあったんだなと青春時代を思い出して懐かしかったです。
オルガン繋がりで、ジャズ系のオルガン弾きのおさらいも一週間ほどかけて一気にしました。ジミー・スミスとウェス・モンゴメリーのコンビによる Dynamic Duo の定番アルバムから開始して、ロニー・スミス、ロニー・フォスター、ジミー・マクグリフ、リチャード・グルーヴ・ホームズとジャズ・ファンク系のオルガン弾きの楽曲をiPhoneのミュージックライブラリに登録して日課の散歩中にずっとながら聴きしました。その中で、繰り返し何度も聴いたのは Dr. Lonnie Smith “spinning wheel” と Ronnie Foster “on the avenue” です。ロニー・スミスはヒップホップ系やアシッド・ジャズ系のアーティストやクラブDJに大人気で、よくサンプリング音源に使われています。中でも “spinning wheel” は一番人気のようで、ちょくちょくお店や飲食店でも耳にします。ロニー・スミスのビジュアルの変遷は愉快で、最初は普通の黒人ジャズマン風だったのが被り物への尋常でないこだわりがあるらしく、ベレー帽→カウボーイハット→ターバン とトレードマークの被り物が変遷していきます。晩年はほとんどターバンを巻いていて、どうみてもインド人にしか見えません。いつからかドクターの肩書を名乗るようになりましたが、何の博士なのかは不明です。息の長いミュージシャンで、残念ながら昨年(2021年)逝去しましたが、晩年はちょいちょい来日してブルーノート東京にも出演していました。ヤナーチェクからファンク系ジャズまで一気に連結されてしまいました。脳にいつもとは違う刺激を与えてくれる神LIVEに行くと、記憶の棚卸しができるのがまた楽しみです。

DrLonnie_Smith

*注記2: 1970年代 エレクトリック期 マイルス・デイビス
クラシック音楽にハマるかなり前から、僕がずっと(今でもどっぷり)聴いてきたのはJAZZです。ポリリズムというと、マイルスの on the corner と条件反射で反応してしまいます。問題作とリリース当時から評価されてきた on the corner を1980年代に最初に聴いた際は、正直苦手でした。その頃は、大学のJAZZ研でドラムを叩いていて、マイルス・バンドのトニー・ウィリアムスを崇拝していました。マイルス・ウェイン・ハービー・ロン・トニーの黄金カルテットが最強にして最高と思っていたので、ビッチェズ・ブリュー以降のエレクトリック期のマイルスは苦手でずっとスルーしてきました。今にして思うと、音楽の経験値不足で理解できず、食わず嫌いでした。それから30年近く経過して、ネットラジオで流れていた Live Evil を偶然耳にして、あら不思議とても良いじゃないですか。これをきっかけに50歳を過ぎてからビッチェズ・ブリューから聴き直して、その流れで on the corner も好きになりました。決して耳ざわりの良い、リラックスできる音楽ではありませんが、緊張と緩和と適度なノイズ感がストレス解消に効果ありです。きれい過ぎるマイルドな曲では案外ストレスは緩和しないようです。畑は違いますが、クラシックの現代音楽にもそういうコンセプトの曲が多いですね。それにしても、エレクトリック期のマイルスのレコードジャケットのイラストはなんじゃこりゃです。ビッチェズ・ブリューはまあ良しとしても Live Evil のイラストはエグくて今でも苦手です。中身はマイルスのアルバムでは一番ロック寄りで熱い演奏なんですが・・・

Miles_Davis

若い頃のキース・ジャレットが今では考えられないプレースタイルで猛烈に電子ピアノを弾きまくっています。
蛇足ですが、帝王マイルスは偉大で今でもよく聴きますが、50歳を過ぎてからは同時代のトランペッターならドナルド・バードの方が僕の中ではイケてます。お酒のBGMに良し、散歩に良し、真剣に向き合って視聴して良しでいつも聴いています。1960年代のハードバップも好きですが、1970年代のポップなバードは最高です。マニア限定的で聞き手を選ぶエレクトロニック期マイルスとは対照的で、バードは明るく楽しい陽気な曲ばかりで癒やされます。

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