場外乱闘の 3 回目です。
第1回で僕の趣味のダイビングと水中写真撮影について書きました。あれからあっという間に4ヶ月近くが経過しました。予告していた水中写真の展示を、会社から歩いて2分のカフェ、Kanda Coffee にて開催中です。11 月 20 日まで開催していますので、ご興味のある方は是非お越しください。珈琲とっても美味しいです!
これまでに 2 回、Kanda Coffee さんのご厚意により写真展を開催しました。初回は 2016 年に総花的な水中写真展を、前回は 2018 年に「インドネシアの不思議な水生生物」をテーマに行いました。今回は 4 年ぶり 3 回目の開催です。テーマは前からやりたかった、僕が日本で一番好きなダイブサイトである奄美大島の水生生物マクロ編です。先ずは、奄美大島で潜るようになったいきさつを写真展の巻頭言を引用して紹介します。
奄美大島が大好きだ。
奄美大島は、長年親しくしているシンガポール在住 30 年の Y 氏の出身地。Y 氏とは 1990 年代から のつきあいで、飲み会の度に故郷の話をさんざん聞かされてきた。Y 氏はどことなくフィリピンの 国民的英雄のマニー・パッキャオ(8階級制覇のプロボクサー)に似ていて、ガッチリとした筋 肉質の体躯は見るからに強そうな男だ。「奄美ではお祝いがあると庭先で山羊をつぶしてみんな で山羊汁食べるんですよ!」「鶏はよく食べるんで、庭先で頸を撥ねるとそのまま首なしで走り回るんですよ」「今やったらヤバいですけど、子供の頃は目の前の海で潜って伊勢海老とか蛸とか素手で獲ってました」 海南鶏飯をつまみにタイガービールを豪快に飲み干しながら故郷について嬉しそうに語る彼は都会育ちの私からすると異世界からやってきた人だ。そんな訳で、彼が生まれ育まれた奄美大島とはいかなる場所なのか、ずっと興味があって行きたい気持ちはあったものの、なかなか最初の一歩が踏み出せずにいた。
最初に奄美大島を訪れたのは 2014 年。趣味のダイビングで沖縄県の代表的なスポットを一通り潜ってしまい、沖縄に少し飽きてきた頃だ。新たな行き先を考えていたら、Y 氏より奄美大島を猛プッシュされ、Y 氏の妹さんが懇意にしている地元のダイブショップと漁師を紹介してもらった。 初めて訪れてからはすっかり奄美ファンになってしまって、今ではリピーターとなって通っている。ダイビングはもちろんだが、奄美大島が持っている密林と海で形成された、山の神様・海の神様があちらこちらにいそうな雰囲気が堪らなく好きだ。50歳で奄美大島に移住して亡くなるま で独特の花鳥画を描き続けた孤高の日本画家、田中一村の気持ちが分かるような気がする。
奄美大島は沖縄ほど観光化されてなく、訪れる観光客も沖縄の比ではない。ダイビング初心者や大型のツアー客も少なく、群雄割拠の沖縄と比べればダイブショップ同士も競争よりは協調してい る雰囲気だ。それだけ海が荒らされていないということで、サンゴも海洋生物もイキイキしている気がする。海の色は神秘的な濃いブルーで透明度も高い。僕が好きなのは北部の笠利地区で、潜るのはたいてい北部だ。笠利は地理的に恵まれていて、島の東側と西側の行き来が簡単だから、 太平洋と東シナ海の両方のスポットを一日で潜ることができる。本州で例えれば、太平洋側と日本海側(例えば岩手県と秋田県)がたった数キロの距離で行き来できるようなものだ。島の東と西では海の表情は全く違い、太平洋は面白い地形と大物、東シナ海は僕の大好きなマクロ生物の宝庫だ。
ダイビング以外では釣りも楽しい。懇意にしている漁船の船長に連れて行ってもらった喜界島近くの漁場で、1m クラスのアカマツ(ハマダイ)を釣らせてもらったのは忘れられない。アカマツの刺身を食べながらの黒糖焼酎のオンザロック、なんとも幸せな時間である。食べ物つながりでは、鶏飯や島豆腐も抜群に美味い。書いていたらまた奄美に行きたくなって来た。
今回の写真展では奄美大島を潜って撮影した、海洋マクロ生物(小物)をご紹介する。アオウミガメやギンガメアジ等の大物、不思議な地形も奄美ダイビングの魅力なので、機会を改めてご紹介できればと思う。今回の企画に全面的にご協力くださったカンダコーヒーさんには心から感謝申し上げます。(そしていつも美味しい珈琲をありがとう!)
奄美大島で 2014 年から撮影した 3 千枚以上のデジタル写真の中から、僕の好きな小さな被写体の写真を 10 枚選んで展示しています。なかなかに根気のいる作業ですが、PC で過去の写真を整理するのは楽しい時間です。撮影したデジタル写真は、忙しさにかまけていると撮りっぱなしになりがちなので、写真展はアーカイブの整理整頓の良いきっかけになります。作業手順の最初の一歩である整理整頓と抽出に一番時間がかかります。
プリント用に写真を選択した作業の次は、画像編集ソフトでの加工です。印刷に用いる原画作成にはこの加工作業は必須です。僕は正方形の構図が好きなので最初にトリミングをします。トリミングの後は、ほこりのような浮遊物の除去です。撮影時には海底の砂を巻き上げないように注意していますが、どうしても砂粒やプランクトンが写り込んでしまいます。写真を拡大して、浮遊物を消しゴムやスタンプ機能で丁寧に除去していきます。僕は高精細の 4K モニターを使用していますが、そこで気にならないような小さな浮遊物も光沢銀塩印画紙でプリントアウトすると案外目立ちます。なので、浮遊物除去はかなり丁寧にします。お料理でいえば、灰汁取りのようなだと思います。最初に出汁の灰汁を丁寧に取らないと、出来上がりがすっきりしないあの感じです。
浮遊物や余計な映り込みを除去したら、あとは明るさや色味を調整して完成です。最近の画像編集ソフトは高機能でやれることが多すぎるので、できるだけシンプルに仕上げることを心がけています。お化粧をやりすぎると何がオリジナルなのかだんだん分からなくなって、自然な仕上がりから離れていってしまいます。これもお料理と同じで素材の味を尊重して旨味を加え過ぎないことが肝要だと思います。僕の大好きな京都の料亭の大将が言っていましたが、「料理を美味しくすることは、一定以上の腕の料理人にとってそんなに難しいことではない。だけど重要なのはやり過ぎないことだとどこかで気がつく。旨味を加えすぎた料理は必ずお客様に飽きられる。」 金言だと思います。
写真のプリントは自分ではせずに、ラボにおまかせです。一時期は高性能のプリンターを購入して自分でやっていましたが、プロラボでの出力の方が断然仕上がりがいいので、ここは楽をするようにしています。出来上がってきた写真をチェックして、NG のものはトリミングからやり直して、納得行く仕上がりになるまで再編集をして印刷に出すの繰り返しです。印刷が完了したら最後は額装です。出来上がった写真を額縁に入れてもらいます。絵画もそうですが、アート作品は表装や額装によって驚くほど見え方が変化します。服装によってモデルの見え方が変化するのに似ています。苦労して準備した作品も、額装が貧弱だと残念なものにしかなりません。額縁加工はいつも同じお店にお願いしていますが、注文する時の店員さんとのやり取りが楽しいです。洋服を選択する際にスタイリストがいるように、プロの額装師のアドバイスは的確です。何年も前に額装した写真のことを覚えていてくれたりすると、思わず笑顔になってしまいます。社交辞令かもしれませんが、腕が上がってますねと言われると励みになります。
額装写真が出来上がったら、説明文を書いたり並べる順番を考えたりします。写真の撮影日をチェックして、ログブック(潜水記録)を参照して図鑑で被写体の名称を確認します。潜水で疲れている日はいい加減にしかログブックを書いていないことも多々あるので、図鑑調べは結構苦労します。だけどそれもまた楽しです。ウミウシやエビ・カニ類は種類が多く、正確な名称が分からない場合は素直に先生(ダイブショップ店長)に確認します。そうやってデータ収集をした後に、図鑑の解説とは違う、自分なりの勝手解釈のコメントを書いています。最後に説明パネルはスチレンボードで手作りします。今回は巻頭言の原稿作成をビーコアデザイナーの聡美さんが手伝ってくれ、立派な仕上がりになり大満足です。田中一村インスパイアドな構成にして欲しいとのリクエストに見事に応えてくれています。このようなプロセスで写真展開催の準備をしました。ダイビングの先生はもちろんですが、プロラボ、額装、聡美さんの原稿作成といろいろな方のアドバイスやご支援でここまでたどりつけました。感謝!
最後に付け加えると、今回額装展示できなかったマクロ系以外の写真も含めて 80 枚ほどのお気に入りは、スライドショーにして動画をYoutubeで公開しています。そちらも併せてご覧いただけると、島の雰囲気がより伝わるんじゃないかと思います。奄美大島の魅力を少しでもお伝えできたら嬉しいです。
下記のリンクから、今回の写真展の巻頭言(PDF)をダウンロードしてご覧いただけます。
→ 奄美大島 水中世界 マクロ編